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うつ病や適応障害で休職・退職…お金はどうする? 役立つ制度や手当金まとめ

長時間労働などの過労や、パワハラをはじめとする人間関係によるストレスで、心身を壊す人は少なくありません。そして、うつ病や適応障害と診断された場合、しばらく仕事を休むことを勧められることも多いでしょう。

しかし、毎日時間にも追われながら働くうちに心身を患い就業不能となってしまった場合、目の前にある仕事のことで頭がいっぱいだったのに急に休職となると、「生活するためのお金はどうしたら良いんだろう……」と途方に暮れてしまうこともあると思います。

実は、うつ病や適応障害による就労不能が原因でお金に困った場合、生活を助けてくれる制度や手当金があります。ただ、これらの多くは何もしなくても受け取れるものではありません。権利を持っていても、知らなければ受給できないものがほとんどなので注意が必要です。

今回は、うつ病や適応障害で働くことが難しくなってしまった人に向けて、休職・退職時に利用できる制度や手当金について紹介します。上手に活用して一旦はお金の心配をせず、しっかりと療養しましょう。

うつ病や適応障害で働けなくなったら、まずは「傷病手当金」の申請を

うつ病や適応障害で働けなくなった際に使えるお金に関する制度はいくつか種類があり、何から手を付けるべきか悩む方もいるかと思います。もし休職をする場合であれば、最初に「傷病手当金」の申請手続きをすると良いでしょう。

傷病手当金とは

うつ病や適応障害で休職することになった場合、ほとんどの会社では「給料」は支払われなくなります。その代わり、会社が所属している健康保険組合から「傷病手当金」を支給してもらうことができます。

傷病手当金は、精神疾患に限らず、病気やケガで働けなくなったときに給料の約3分の2を目安に支給してもらえる制度です。

引用:全国国民健康協会 – 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

休みはじめた日から最大1年6カ月の間、受給する権利があります。会社に在籍しながら休職した場合でも、退職をした場合でも貰うことができます。

傷病手当金を受給するための条件・注意点

傷病手当金を受給する際には、いくつか注意するべき点があります。以下でチェックしておきましょう。

  • 5日以上連続で休んでいることが条件
  • 1つの病名で受給できるのは生涯で1回のみ
  • 1年6ヶ月の期間中であれば再受給できるが、期限は変わらない
  • 休職後、傷病手当金はすぐに振り込まれる訳ではない

傷病手当金は5日間以上連続で休んでいることが受給条件の1つであるため、正式に休職をせず、勤務日数を少し減らしたり時短勤務にしたりする場合は貰うことができません

また、1年6カ月の期間中であれば、一度復職して再度休職となった場合も受給再開できますが、1つの病名で生涯のうちに使えるのは1回のみです。例えば、前職で「適応障害」になり、転職後2回目の適応障害になり休職となった場合、この傷病手当金は利用することができません。

引用:全国国民健康協会 – 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

また、傷病手当金は「仕事を休んだ」という証明をしてから受給が決定するという流れになっているため、休職した最初の月は支給されることがありません。保険組合によって差はあるかもしれませんが、基本的には休職後最初の3カ月程度は全く収入が無い状態になることが多いので注意しましょう。

ただし、この待っていた期間の傷病手当金はしっかり振り込まれるので、その点は安心してください。最初の振込時にまとめて数ヶ月分が支払われます。

※傷病手当金について詳しくは、全国健康保険協会のサイトや各保健組合などの情報をチェックしてください。

「自立支援医療(精神疾患医療)」で医療費負担が軽くなる

心療内科や診療科での受診料、抗うつ剤や睡眠薬などの薬代は、普段風邪で病院へ行く感覚と比べるとかなり高額となる傾向があります。また、休職中は会社を休むための診断書を有料で発行してもらうなど、とにかくお金がかかります。ただでさえ収入が無いまたは少ない状況の中で高額の医療費がかかってくると、生活の不安で精神疾患も改善しにくくなるでしょう。

そこで、休職や失業状態が長期化する見込みがある人は「自立支援医療(精神科通院医療)」の申請をおすすめします。

自立支援医療(精神科通院医療)とは

自立支援医療(精神科通院医療)は、うつ病や適応障害などの精神疾患が長期化する見込みがある人に向けた、医療費を軽減してもらえる制度です。通常、保険を使った医療費は「3割負担」ですが、この制度を使えば「1割負担」になります。これは病院での治療費も、処方された薬代も含まれます(入院費は含まれません)。

また、精神科医療費にかかる金額の月上限が設けられます。収入などによって上限額は異なりますが、5000円、1万円、2万円のどれかになり、それ以上の金額になれば支払う必要がなくなるため、通院回数や薬の数が多い人などは特に、経済的な負荷が減ることになるでしょう。

自立支援医療(精神科通院医療)の注意点

自立支援医療制度を利用すると、精神科や心療内科での診察料や処方薬にかかる金銭的負担がかなり軽くなります。ぜひ利用するべき制度ですが、受ける際の注意点や負担額軽減の対象とならないものもあるため、以下で説明します。

  • 医師の診断書などが必要
  • そのため診断書を貰えるまでは負担が軽減されない
  • 診断書の作成にも費用がかかる
  • 診断書(会社に提出する用も含めて)は減額の非対象

まず、自立支援医療の申請をするにあたって、医師の診断書が必要となります。そのため自立支援医療の申請時にそもそもお金がかかるという点は覚えておきましょう。

また、自立支援医療は継続的な通院が必要な人に向けた制度であることから、初診から申請に向けた診断書を貰うケースは稀だと考えられます。ある程度通院した上で診断書を貰って申請するという流れを想定した場合、その申請が降りるまでの間は3割負担のままとなります。

そして、診断書などにかかる金額は、治療と直接関係ないため、自立支援医療の対象に含まれません。これは会社に提出する診断書と、自立支援医療の申請で必要となる診断書、どちらも同じことが言えます。診断書の作成にはそれなりの金額がかかりますので、長期間の休職が見込まれる場合は、医師と相談して数ヶ月分をまとめてもらった方が無難です。(必ずできるとは限りません。医師の判断を仰ぎましょう。)

※自立支援医療について詳しくは厚生労働省のサイトや各自治体の情報も確認してください。

退職後、転職するまでは「失業保険」を受給できる

会社を辞めた後にもらえるのが「失業保険」です。退職後、病状がまだ良くない場合は焦って就職をしなくても、失業保険をもらいながら療養することができます。

失業保険とは

失業保険は、基本的に会社を辞めてから7日間の待期期間と、3か月の給付制限の後に支給が開始されます。ただし、給付制限は自己都合退職の人がされるものであり、病気が原因で退職したという場合は待期期間の7日間が経てばすぐに支給開始されます(原則として、会社側に「病気理由で退職」と書類に記載してもらう必要がありますが、障害者手帳があれば例外となります。※詳しくは後述します)

給付期間は被保険者として雇用された期間によって異なり、10年未満であれば90日間、10~20年で120日、20年以上なら150日間支給されます

被保険者期間(勤続年数)給付日数
10年未満90日間
10〜20年120日間
20年以上150日間
基本的な失業保険の給付日数について(障害者については後述)

基本手当の金額は、原則として離職した日の直前6カ月の間に支払われた賃金の50~80%と決められています。

失業保険の注意点

失業保険は「積極的な就労の意思がある」「いつでも就労できる能力がある」といった人に向けた手当になるので、精神疾患などで体調が悪くすぐに就職できない場合は、原則として支給できません。

休職期間が長い人や病気が原因で辞めた場合、医師に「すぐ働くことができる状態」だと証明してもらう書類の持参を求められるケースもあります。

退職後、心療内科に通いつつ失業保険を受給したい場合、医師に相談が必要になるかもしれません。

※失業保険について詳しくは、厚生労働省のサイトハローワークのサイトなどをチェックしてください。

「障害者手帳」を取得すれば失業保険受給時に役立つ

うつや適応障害などで心療内科や精神科を受診し始めて6カ月以上経っている場合、医師の診断書等があれば「障害者手帳」の申請が可能になります。これまで健康体で生きてきて、今回初めて精神疾患になった人は「障害者」という響きに少し戸惑うかもしれませんが、失業保険の受給時に大きく役立ちます。

ここでは、失業保険受時において、障害者手帳を取得するメリットなどについて解説します。

3ヶ月待たなくても失業保険がもらえる客観的証明となる

失業保険はは前述したように、10年以上雇用されていなければ基本的に90日間のみの支給となりますが、障害者の場合は「就職困難者」となり、被保険期間が1年以上であれば300日間、1年未満の場合でも150日間も受給できるようになります。

被保険者期間(勤続年数)給付日数
1年以上300日間
1年未満150日間
障害者の失業保険給付日数

また、退職理由について「病気で退職した」場合であれば退職して7日間の待期期間の後にすぐ失業保険を支給してもらえますが、必要書類にある退職理由は基本的に「会社側が記載する」ものとなっています。会社側はほとんどのケースで「自己都合による退職」と記載してくるので、それに対して変更してもらいたい場合、個人的に「理由を変更してください」と交渉しなければいけなくなります。ただでさえ精神疾患で辛い時期に、ストレスの原因だった会社とやりとりをするのはかなり難しいでしょう。

そのような時は、障害者手帳があれば「会社でも申請者本人でも無い、客観的な判断材料」として「病気理由での退職」が認められることがあります。自治体によって条件などが異なる可能性があるので事前に電話等で確認した方が良いですが、給付制限をストレスなく解除するためにも、障害者手帳は在職中などに取得しておくことをおすすめします。取得には審査がありますが、うつ病とは診察されていない、適応障害の人でも取得されたケースがあります。

障害者割引が受けられるというメリットも

障害者手帳を取得すると、様々な場所で「障害者割引」を受けられるようになります。例えば、東京都民であれば都電や都バスが無料になったり、全国の映画館や水族館などで割引を受けられたり、美術館に無料で入れたりといったことが挙げられます。働けない期間中、傷病手当金や失業保険などが出るといっても、就労時の100%分を受け取れるわけではないため、こうした割引を受けられるのもメリットと感じられるでしょう。

療養中、体調が比較的良い日であれば、こうした障害者割引を利用できる施設に足を運んでみるのもリフレッシュになるためおすすめです。

※障害者手帳について、詳しくは厚生労働省のサイトや自治体の情報をチェックしてください。

うつ病や適応障害で休職・退職時のお金に関する制度・手当金のまとめ

うつ病や適応障害で休職・退職する際には、このように経済的負担を軽くしてもらえる制度や手当金が存在します。また、こうした手当金のほとんどは非課税のため、翌年の住民税も安くなるといったメリットもあります。

知っていれば申請することができますが、普通に過ごしていれば誰も教えてくれないものばかりなので、自分自身でしっかり調べることが重要です。

もちろん無理は禁物ですが、頑張りすぎてしまった心身をゆっくり休めるためにも、このような制度や手当金は上手に利用していきましょう。